20120109

ジェフ・ライアン著『ニンテンドー・イン・アメリカ』



ジェフ・ライアン著『ニンテンドー・イン・アメリカ』読了。
アメリカ人ジャーナリストの視点で、日本を代表する企業・任天堂を描いたもの。






任天堂に関する本というと、枯れた技術の水平思考を軸に「人物」や「ゲームタイトル」を語る切り口が多い印象があって、読後感は「あぁ、自分もこんな発想をできるようになったらいいな」という悔しさと啓発。文章を読むことでのんびりできた以外は、とくに目次に目を通す以上のものは得られなかった。

で、本書。
年末に成毛眞さんが猛烈におすすめしているのを見て、読んでみることに。
(成毛さんがおすすめしている本で、実際読んでみたものはほぼ全部面白かった)

話は会話のない経済小説のような形で、その時々の市場環境や山内、横井、宮本、荒川のポジションや性格の描写を交えながら、話がぐいぐい進む。単行本で336ページあったが、3度のメシなどで読書が中断すると、食事中も次はどうなるんだろうとワクワクする気持ちがした。ちょうど、スーパーマリオをセーブしてご飯を食べていた小学生の頃のように。

枯れた技術の水平思考を軸にする任天堂本と本書が異なるのは、きわめて主観になるけれど、読んでいて、“ワクワク、ドキドキする”という点につきる。小説を読んだ時の感覚に近い。

同じビジネス書でもコトラーのマーケティング論を読んでいる時には、「このアイデアを今の仕事に当てはめると、こんなことができそうだな」という風に、未来に対して思考が広がっていく。しかし、本書を読んでいると、初めて任天堂の商品に触れたときの気持ちが、ふわっと蘇った。先に述べたような未来へ広がっていくというよりは、自分の過去の思い出が引き出されて行く。

我が家はそれほど裕福ではなかったから、スーパーファミコンはお願いしまくってやっと買ってもらえた 。初めて箱を開けた時の、発泡スチロールの箱の質感が今でも忘れられない。というか、こんな質感なんてこの本を読まなければ、ずっと思い出すこともなかったかもしれない。

初めて歯医者で歯を抜いてもらった日、痛くて泣きじゃくっていたけれど、特別に親が1日の制限時間を越えて、ゲームをするのを許してくれたこと。

どうやってクリアするかで友達と喧嘩して、絶交したこと。

新しいソフトが欲しくて、古いソフトを売ったけど、足しにもならなかったこと。

とにかく10年以上も思い出さなかったことが、次々と鮮明に蘇ってきた。

そして、中学、高校、大学と全くゲームをしない年月を過ごして、この本を読み終えた今思うこと。

もう自分は今あるものを享受するだけの時間を過ごしてはいけないんじゃないか。
子供たちに、というより社会の人々に対して、どんな一瞬でもいいから心に残るようなものを作って届けて行かなければならないと、正義とは全く違う使命感が残った。

そんな気持ちにさせてくれた本。おすすめです。

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